【撮影記】冬の知床(後編)
自然の中を歩く。
前回の続き。
スノーシューを履き、知床の原生林を歩くこと約1時間、ツアーガイド氏曰く、絶景ポイントにたどり着く。絶景ポイント。スマホが普及しSNS等で様々な写真が飛び交うようになった現代において、絶景と聞くとどうせ「インスタ映えスポット」なる看板が立てられているように感じる。以前恵庭渓谷に足を運んだ際も、全くの圏外地区なのにそのような看板があちらこちらに立てられていた。
しかしここはそのような気配は微塵も感じられない。なぜならここは知床の原生林中だからだ。様々な野生動物、もちろんヒグマも生息する。特に冬季は深い雪で閉ざされた場所にあるため、知る人ぞ知る、まさに絶景であった。
前回の記事でもお伝えした通り、ここは人工物の音が全くしない場所。風の音、木の音、キツツキの音、鳥の音、そして自分の足音だけが空間に響いている。ところが突如人工的な大きな音が鳴り響く。動物から見たら空を飛ぶこの巨大な生き物は何に見えているのか。天敵の猛禽類に見えるのか。オオワシやオジロワシは何を感じているのか。意外と「あれはニンゲンが作った乗り物だから近づかなければどうってことない」と思っているのかもしれない。このヘリコプターが実際何者なのかは不明。上空からエゾジカの生息状況を調査するためのヘリかもしれないとガイド氏は仰っていた。
中央右に見える山は羅臼岳。知床半島の中央付近に位置し、半島最高峰の山である。知床富士の名を持つこの山からはオホーツク海、太平洋を望むことができる。
山頂付近をアップする。7月ごろまで雪が残り、そして9月中旬にはまた雪が降り始めてしまうこともあるそうで、夏の短い山である。もちろん冬季はご覧の有り様。雪に閉ざされた世界が広がる。
麓には野生のシカが。600mm望遠レンズで撮影しているため、そこそこ距離はあるものの、意外と近いところにいる。向こうは人間慣れしているのか、こちらの様子は全くお構いなしに遠くを見つめていた。
35mm標準レンズで見た風景。ほぼ人間の視野に近い焦点距離のレンズなのでシカたちとの距離感は大体こんな感じ。ここは草原地帯になっている。入り江からの強風の影響で木々が育たず、こうした草原状態になった。風のない日はこのようにシカが草を食べるシーンがよく見られるとのこと。
フレペの滝からオホーツク海を望む。昨日に引き続き、流氷がビッシリ岸まで埋め尽くしている。そして快晴、このような天候はシーズン中でも限られた日数しかない。向こうに見える灯台は宇登呂(ウトロ)灯台。白黒の縞模様は積雪地域や、海や空が背景になる場所では見分けがつくようにそうした模様が施されているとかなんとか。
そしてここがフレペの滝。もちろん冬なので水は凍り、氷瀑のようになっている。 別名「乙女の涙」とも言われ、ホロホロと流れ落ちる様子からこの名前がついている。ちなみに地表面を水が流れるのではなく、降った雨や雪が染み込んだ地中から断崖絶壁に染み出して流れ落ちる滝となっている。
滝部分をアップで。「フレペ」とは「フレ・ペッ(赤い・水)」というアイヌ語が由来。しかし見る限り赤いというより青い。これは諸説によると、夕陽に照らされた滝が赤く見えることや、鉄分の多く含んだ水から名前がついたとされている。先程の滝全景の写真を見ると、少し岩肌が赤っぽく見える部分もある。これもこの名前がついた由来なのかもしれない。
この日は気温が高く(高いと言っても3度程度ではあるが)、時折氷瀑が落ちる音が鳴り響いていた。春はもうそこまで来ている。
そしてまた雪原を戻る。遠くの山の白く反射している部分。きっとアイスバーン状態なのだろう。見るだけでゾッとする。
オシンコシンの滝バス停。何もないが何かがある。もちろん柵の向こうは海、いや流氷が広がる。
帰り道、天に続く道(ここはまたいつかリベンジしようと思う)から90度方向を変えて見た景色。本当にどこまでも流氷が続く。次の日にはこの流氷はほとんど沖合のほうに遠ざかってしまった。