【撮影記】流氷の北浜駅(前編)
風に乗ってやってくる自然
「北浜駅」と聞いて、関西の方ならおそらくピンとくる駅があるかもしれない。大阪取引所や中之島バラ園、中央公会堂など、土佐堀通り、大阪の中心部に位置する「北浜」だ。しかし、今回は違う。「流氷の見える」北浜駅にやってきた。
JR北海道釧網本線。その名の通り釧路から網走をつなぐ路線である。網走駅から4駅目にあるここ北浜駅。列車は1日に数本である。
もし札幌から鉄道で訪れるなら、朝6時台に出発する特急オホーツク1号に乗り、網走駅で乗換列車を待つこと3時間、15時27分にようやく駅に到着する。長い長い旅になる。
車を使っても、札幌から網走まで5〜6時間はかかるため、そう簡単に訪れることはできない。とはいえ、道央道、そして旭川紋別自動車道を通ると遠軽まで高速道路を利用して移動できるため、思いの外スムーズに移動できる。道外からの場合は北海道の玄関口新千歳空港ではなく、女満別空港を使うと比較的アクセスしやすい。地元の人も皆口を揃えて「女満別から来たんですか?」という。札幌からレンタカーで来たなんて言えばみんな揃って驚き呆れる顔をする。
釧網本線は網走からしばらくオホーツク海の海岸沿いを走る。ここ北浜駅も海岸すぐそばに立地しており、冬になるとシベリアからはるばるやってきた流氷を見ることができる。そのための展望台もあるほど観光名所としては名高い。駅は無人駅であり、展望台へは無料で立ち入ることができる。この日は2月下旬。流氷シーズン真っ只中だ。しかし。
残念ながらこの日は南風の影響で流氷は見られず。海岸沿いには残骸のような小さな流氷がまばらに見えるだけだ。遠い沖合の遠いところまで流氷は離れてしまったようだ。
駅から東方面を見ると知床連山が望める。ここは大きく緩やかに湾曲した海岸沿いにあるため、まるで湖のように、対岸に山々があるように見える。向こう側は知床国立公園。世界自然遺産だ。
知床半島を超望遠レンズでアップしてみる。よく見ると海岸線沿いが縦に伸びたように見える。上位蜃気楼だろうか。上方に暖かい空気、下方に冷たい空気があるとき、その温度変化が緩やかだと地面付近がグッと上に伸びた虚像が見え、急だと上下反転した虚像が見えることがある。これが上位蜃気楼と呼ばれる現象である。この日の気温は約3度ほど。縦に伸びた虚像なのか、上下反転した虚像なのかは少し判断しづらいが、どちらにせよ蜃気楼が発生していることには変わりないだろう。
海岸線近くに見える白い帯が流氷であることには間違いない。しかし先ほどの写真でも分かった通り、この日は上位蜃気楼が発生していると考えられることから、これは「幻氷」と呼ばれる現象が発生している可能性も考えられる。つまり流氷の蜃気楼、見えているのは(半分は)幻かも知れない。幻氷はオホーツク地域では春を告げる現象としても知られる。春はすぐそこまでやってきている。
少し移動してフレトイ展望台に立ち寄る。ここから超望遠で臨む山々。雪化粧という言葉はこのためにあるのか。夕陽に照らされ赤に燃える。赤と青と白のコントラストが非常に美しい。
ふと見ると網走発釧路行きの普通列車が夕陽に照らされて走る。釧路に着くのは夜の20時前。ここから3時間以上かけて釧路湿原を縦断しながら道東の街へ向かう。
ここで釧路から来た列車と行き違う。網走までもう少し。
背後は雪で覆われた濤沸湖。ラムサール条約に登録されている汽水湖である。
撮れ高はあるように思えるが、まだ肝心の流氷が見えていない。この数日後にリベンジに向かった。後編もお楽しみに。